災害時の薬剤師の役割とは
痛ましくも甚大な被害を生んだ2011年3月11日の東日本大震災ですが、同時に日本国内におけるライフラインの整備についての問題を明確に浮き彫りにしました。
震災が起こった当初から水や食料といった生命維持に必要な物資の調達については早めに整備をすることができました。
しかし一方で自力で移動が難しい高齢者や障害者へのケアや、慢性的な持病を抱える患者さんといった人へのケアを十分に行うことができず「災害弱者」という言葉が生まれるほどになりました。
医師や看護師などの直接的な医療行為ができる人材については、災害や大きな事故が起きたときにすぐに対応ができるように緊急時の運搬と治療体制がきちんと整備されているのですが、薬剤師においてはそうした緊急時の対応は病院施設ほどしっかりしたものではありません。
しかしながら一度そうした大きな事件・事故が起こったときには大量の医薬品が必要となることから、薬剤師もそうした医療チームの一員として災害対応にあたることが今後はしっかりと定められていくことになっています。
既に地域の病院・診療所や自治体とともに災害時の医療チームの一員として編成が進んでいる地域もあり、救護医薬品の常備や持ち出しについてのルールが定められています。
災害時のための医薬品備蓄
震災を経験した地域や、今後大きな地震などが起こる可能性が高い地域においては、自治体内や薬剤師会、さらに医薬品卸売業者が提携して災害用の医薬品備蓄が行われています。
各自治体には「災害拠点病院」という場所が定められており、一度に大量の患者が出てしまった場合にはそうした大型施設内で治療行為がされることになります。
そうしたときに素早く医薬品を運び込み適切な投薬ができるように、地域の調剤薬局などに医薬品取扱店に運搬が依頼されていたりします。
調剤薬局など病院以外の施設で勤務をする薬剤師などは、緊急時には重病人ではない軽症の人を助けるための看護活動を研修で受けることが義務付けられているケースもあり、常に心の準備はしておくべきと言えます。
また直接的な手当だけでなく、災害時に大きく損ねられることになる衛生状態を改善するため、疾病や傷が悪化しないための環境整備についても薬剤師に課せられた義務となります。
緊急時には独自の判断で投薬をする場合も
災害が起こった直後というのはまずは生命の安全が最優先になるため、多くの人は着の身着のままで脱出をはかります。
つまり平常時には日常的に服用していた薬があっても、その処方箋や薬そのものを持ち出すことができるケースは少ないということです。
避難生活が長期化すると普段使用してきた薬を飲むことができず、健康を害してしまう人も出てきます。
そうしたときには患者さんの様子やそれまで飲んできた薬の記憶をもとに、薬剤師が独自の判断により薬の投与を行うということもよくあります。
本来的には薬剤師は薬の処方を独自に行うことはできませんのであくまでの緊急時での対応ということになります。
そのため万が一の投与ミスを防ぐためにも、普段から調剤薬局を訪れる慢性疾患のある患者さんには、避難時にはできるだけ「お薬手帳」のようにそれまでの投与状況がわかるものを持っていくように呼びかけていくことも大切です。